Home >ランジエ(Ep2Cp0 The Vortex.) 1p・2p・3p・4p
『…………。』
(貴族の令嬢の外出……。
やはりフォンティナ家のお嬢さんの話だろう。)
(しかし、こんなにウワサが立つようなことではないから逆に根拠のない話と考えていたが。
セラフィス様があえて言及するという事は事実のようだな。)
−− ミユロゼ方面、自宅へと歩いて行くランジエ。 −−
ランジエ:
−− ミユロゼ前で立ち止まる。 −−
(フォンティナ家らしくないな。こんなに情報が漏れるなんて。
誰かが故意に情報を流しているのか?)
(それとも単純に貴族のお嬢さんにふさわしく派手に外出でもしたのだろうか?
……正確な情報をもっと得られない限り、判断は無意味だ。)
−− 北、自宅方面を向く。視点が玄関前に移動する。 −−
(とにかく、ランズミのところに戻らないと。)
−− 自宅に向かって歩き出す。 −−
□
−−暗転−−
−− 部屋の中に金の髪の少女とクリーム色の犬。そして、部屋の奥に赤い髪の女性がいる。 −−
赤い髪の女性:
−− 部屋へと入ってくるランジエ。座っていた犬が立ち上がる。 −−
赤い髪の女性:
『お兄ちゃん、帰って来た。』
−− 部屋の奥からランズミの右隣へと移動して来る。 −−
『あっ、やっと帰って来た!
……待ちくたびれたよ。何がそんなに忙しいのさ?!
全然連絡できないし、どこをそんなにほっつき歩いてたの?』
『こんにちは。』
−− 犬がランジエの右隣に移動して来る。 −−
『いつも思うんだけど、ランジエ君。
かわいい妹さんをこんなふうにひとりにしていていいの?
何かあったらどうするの?』
『私は大丈夫です。
プリンがいるから。』
『あの犬のこと?
……ランジエ君、あの犬が長いことふたりの家族だったということは分かっているけどね。
でもランズミは体も弱いし、面倒を見てくれる人がいたほうがいいでしょう?』
『心配してくださるのはありがたいのですが、
家政婦を雇うことになるのと大差ないでしょうから、あまり気が進みませんね。』
『金?それならギルのやつに頼んで手伝ってくれる人をひとり送ってくれと言えばいいじゃない。
どうせあいつ、金はいくらでもあるでしょ?
ああ見えても利用……いや、頼み事は断らないやつだよ。
思う存分頼めばいい。』
『大丈夫です。
何よりカスタードほど私達を理解してくれる存在はいませんから。』
『ふ〜。
そうは言っても犬じゃない。』
『プリンはただの犬とは違います。
メイリオナお姉さん、私もプリンとお兄ちゃんさえいれば他の人は要りません。』
『ちょっと水を汲んできますね。』
−− 出口へと歩いて行く。 −−
−− 腰に手を当てる。 −−
『そもそもさ〜ネーミングセンスがなくない?
黄色っぽいからって犬にカスタードプリンって何?』
『その時はお腹がすご〜くすいてて、そう付けたみたいです。
うーん……もうずっと前のことみたい……。あまり思い出せないけど……。』
−− 2人に視点が急接近する。 −−
□
−−暗転−−
−− 暗い森が映る。 −−
『その日は特に寒くて暗かったんです。
街へ通じる道が見つからなくて何時間も迷ってたら夜になってしまったんです。
私は具合が悪くて、ちょっとずつしか進めませんでした。
なんとなく、誰かに追われていたような気もするけど……。』
『追われる?
なぜ?誰に?』
『思い出せません。ただ、寒くて、怖かったこと以外は……。
とにかく暗くなってしまったうえに、くたびれてもう動けなかったから、
木や草なんかで寒さをしのごうと思ったのですが……。』
−− 森を右上に移動して行く。 −−
■以下顔つき小窓でした。■
『……雨が降りそうだな。
大変だ、ランズミ、寒くない?』
『うん……大丈夫。』
『お兄ちゃん、ごめんね……。』
『うん?』
『私がもうちょっと元気だったらこんなふうにならなかったのに……。』
『いや。
僕が道に迷ったからだよ。
ランズミのせいじゃない。』
−− 右下側に数歩移動する。 −−
『……もうちょっと行けば街に着きそうだけど……。
困ったな。
ランズミが風邪をひいたら大変だ……。』
『コホン……。
……お兄ちゃん、お腹すいてない?』
−− どこからか草擦れの音がする。 −−
『お、お兄ちゃん……。
今の何の音?』
−− 赤い葉の木、階段、木の順で視点が映る。 −−
ランズミ:
『だ……誰だ!』
−− 右奥の木の影からクリーム色の犬が現れランズミの背後にくっつくように座り込む。 −−
『カ……。』
『カ?』
『カスタードプリンの色だ……。』
『……。
お兄ちゃん、お腹すいてるんだね……。』
『…………。』
『でも、あったかい……。』
□
−−暗転−−
−− 回想が終わり再び部屋に戻る。 −−
『……それから、プリンが道を教えてくれるように前に立って街まで案内してくれました。
だから、プリンはただの犬じゃなくて私とお兄ちゃんには家族みたいな存在なんです。』
『へえ……そんな事があったの。
それは不思議だね。ただの犬みたいだけど人の言葉が分かるみたいだね?
私は動物とはまったく相性が合わないから、うまく付き合ってる人を見るとものすごく不思議なんだよね。
ふ〜む、でもひとつ学んだよ。お兄さんの変なネーミングセンス。』
『そ、そうでしょうか……?
私はとてもよく似合うと思いましたが。カスタードプリン。』
『断固として、絶対、完璧、明白に!
……おかしいよ。』
−− 水を汲み戻ってきたランジエ。 −−
『何がそれほど明白におかしいのですか?
メイリオナ様。』
『全部!!
……あ、そういえばお薬とお茶をもらいに行ってたんだよね?』
−− ランズミに柔らかいミルクティーと気力回復薬を手渡すランジエ。 −−
□
−−暗転−−
−− ランズミから離れた場所、入り口近くで話すランジエとメイリオナ。 −−
『……ギルのやつに連絡するけど、頼む事は本当に、本当に、本当に、ない?
どう?
本当にさあ〜、明白におかしいよ!
いくらあの黄色い犬が利口だと言っても、ランズミの面倒を見る人がいたほうがいいでしょ?
あいつに頼みたくなければ、私の家のメイドでもひとち来させるよ。』
『それ以外にも頼む事がありますから。
あの人には。』
『何?
ああ〜、また何かひとりでいろいろ企んでるようだね。ふん、好きにしな。
私には関係ないことだから。』
『ところで今日は何か御用があったのですか?
理由なく外出なさることはなかったでしょう。』
『あ、そうそう用件を忘れるところだった。
この前頼んだ物、持って来たよ!』
−− ランズミに視点が移る。 −−
ランズミ:
『シッ。声が大きいです。
薬を飲んだ後は、ぐっすり寝たほうが良いんですよ。』
−− 視点が再び2人に戻る。 −−
『……はいはい、分かったよ。
いったん外に出よう。かわいい妹さんにぐっすり眠ってもらわないとね。』
−− 家の外へと向かう2人。 −−
□
−−暗転−−
『ところでギルへの頼み事って何?
あいつ、今はケルティカにいないよ。
連絡はあらゆるルートでかなりスピーディーにできるけど、
あいつがここに帰ってくるには相当時間がかかるよ?』
『いえ、私が行くつもりです。そうすれば問題ないでしょう。
約束の場所だけ連絡していただければいいんです。ここに……。』
『分かった。
私の知ったこっちゃないからね。』
−− 何かの機械を取り出し地面に置くメイリオナ。 −−
−−白転−−
『これ、この前貰った設計図どおりに作ったけど、これじゃ動かないよ。
それでも大丈夫なの?
安全性も全然把握できないしね。
助言者君の頭が切れるほうだってことは分かってるけど、
今回のは失敗作みたいよ。
他のフレームは助言者君がくれた設計図どおり、
私達のアジトにしかけたよ。
でも、やっぱり何の反応も起きなかった。
ここに一番いいエルカナンを使ったのに色が全然変わらなかった。』
『……トリアエズ、変わったら困るでしょう。
メイリオナ様の腕は間違いありませんから信じて任せたんです。』
『残りは自分の役目ですから。』
『……なら好きにしな。
私ももう自分の研究に戻るわ。』
−− ランジエが機械を拾い上げる。 −−
『それ、まともに動いたらどこに行くつもり?
まさか本当にギルに会いに行くの?』
『それのためだけじゃありません。
私ももう少し確認する必要があるのですが、気になるウワサがひとつあるので行ってみようかと。
他に確認しなければならない事もあるのであまりのんびりできませんが。
これが思いどおりに動いてくれたら、無理はなさそうです。』
『それ、ちゃんと動いてくれるかな?
科学者の名誉をかけて言うけど、
残念ながらその設計図に添付されていた理論が一寸の誤差もなしに成立する確立は5パーセント未満だよ。』
『確立がゼロでないなら実験の価値は十分あると思います。
それに実際にテレポートサービスのようなものが存在し、
王立アカデミーや魔法院では実用化されたワープ装置が作られているじゃないですか。』
『ふん……まあそうだね。
でもそれはものすごい量の魔石と金と技術が集約されてるんだよ。
ラン……いや、ユスティン君のようなちっちゃい装置を携帯して、
何かをしてみるなんてめったに考えないからね。
バインドストーンやテレポートスキルを使うのとはまた違うじゃん。』
『まっ、それでもユスティン君の言うとおりやってみる価値はあるんだろうね。
好きにして。すぐに民衆の……いや、
私達のアジトに行けばマッチング実験ができるはずだよ。
あ、そうだ。その実験をしててイスや箱なんかがふたつほど壊れちゃったんだよね〜。
大丈夫でしょ?
上の階のカフェのバイトの女の子が訪ねて来て、扉をどんどん叩いてめちゃくちゃ怒ってたよ。
イスや箱が壊れたのはこっちなのに、どうしてあの子がキレるんだろうな?』
『カモミールカフェのナルディーニ様が借家人達に無関心なおかげで、
気楽に過ごしていますが……。
メイリオナ様は私達が一応公式的には隠れて暮らしているということをお忘れのようですね。』
『ふうん。じゃあうちに来ればいいじゃん!
ギルのやつの家は遠すぎてダメだけどうちは近いよ!
どうしてあえてあんなにうるさい女の子が働くカフェ地下をアジトにしたのさ?
外もうるさいし、湿気が充満してて実験に適してない!』
『メイリオナ様にこれ以上お世話になることはできませんから。
招かれざる客が増えたり、計算外の状況にぶつかったら対応が大変でしょう?』
『今くらいがちょうど良いと思いませんか?』
『カフェの地下室くらいがちょうどいい?
ふ〜ん、それは一体何がちょうどいいっての?
みんなの国なんて雄大なニックネームが笑うよ!
どんよりしたカフェの地下室のサイズがぴったりのみんなって……。
一体どこのみんなよ?』
『重要なのは理想の大きさだと、メイリオナ様もおっしゃったじゃないですか。』
『でもさ〜、それでも私は派手で大きくて広いのがいい……。
昔からさ、研究室っていうのはフラスコ20個くらいいっぺんに割れても気にしないで、
次の実験を開始できるくらい広くなければならないものなんだ。
あ〜とにかく私は知らない!
ギルのやつも助言者君も、いつも自分勝手だよ!ふん。勝手にしな!』
−− 顔をランジエから背ける。 −−
『そうします。
とにかく今日はランズミに会いに来てくださりありがとうございます。』
『メイリオナ様は几帳面な方ですから、連絡をお願いしたことも忘れないと信じてますよ。
それでは……また今度。』
『……人を伝書鳩とでも思ってるの?私は鳩でも子犬でもないよ!
ふん。知らない!忘れてやる!』
□
−−暗転−−
−− メイリオナをその場に残しその場から移動するランジエ。記憶陣の傍までやって来た。 −−
(私が聞いたウワサは、フォンティナ家のお嬢さんがナルビクへ外出する……というものだったか。
この略式ワープサポーターが期待通り動いてくれたらナルビクに直接行けるだろう。
南部アノマラドの活動の中心地なのに一度も行ったことがないから……。
見回す価値は充分にある。)
(それでは、例の地下室へ行ってみよう。)
−− カモミールカフェにある地下室へと向かい歩きだす。 −−
□
−−暗転−−
−− ランジエが地下室へと入ってくる。部屋の中央に茶髪の壮年の男性が立っている。
男性の前まで歩いて来るランジエ。 −−
『いやあ……ずいぶん久しぶりですな?
忙しいのにお越しいただけるなんて何と言ったらいいか分からないよ。ハハハ。』
『お元気でしたか。』
『周りに並べているのは何だね?
……ああ、例の科学だか魔法だかの実験か?
ワープ装置だかを作ろうとずいぶん意欲的だそうだが、
そんなことでせっかくの尊い人才を無駄にしたくはないね。
可能性のないことと可能性のあることの区別ができないほど頭が悪くはないだろうに。』
『…………。
不必要な消耗はないよう、格別に注意します。』
『ウワサは聞いたか?
まあ、有能な助言者様がよもや知らないはずはないだろうが。』
(皮肉るのはやめてほしいな……。)
『どんなウワサですか?』
『見当がつくだろうに、
ずる賢いのか慎重なのか……。
あの、フォンティナ公爵令嬢が遠くに外出なさるというウワサだ、他に何がある?
内情はともかく、今のケルティカは珍しく平穏な時期だからか、
貴婦人の外出ひとつにも波乱が起こるんだな。』
『確実でない情報かと思いましたが、先生がおっしゃるということは間違いないようですね。』
『どういう風の吹き回しか分からないが……。いいよな、公爵家のご令嬢は。
願うだけで何でも叶う地位なんだから。
そんな人間の眺める世の中はどんな姿か知りたくないか?
……アクシピターのナルビク支部長がケルティカに呼び出され、
エシェルト伯爵のことでウワサもあるし……。
こんな時なのに、平穏な時期と称えられるとは面白いことだ。』
『今すぐナルビクに行くのは無理ですが、あちらの情報員を通じて大体の雰囲気を把握しています。
エシェルト伯爵の突然の死亡に関しては、
現地の動向よりもケルティカ内部の反応が政治的により重要と判断したため……。』
『うまくやってくれたのだろうよ。
君は賢い人間だから。』
『…………。
評価してくださるぶん、期待に応えられたら良いのですが。』
(疲れる……。
そして、情報どおり公爵令嬢の外出目的はナルビクで間違いないようだ。)
『この優れたワープ装置を使ってナルビクに飛ぶことはできないのか?
ネニャフルには、どこからでもケルティカ広場まで一気に飛んで来れるすごい装置もすでに用意されているのだぞ。』
『そういうものを利用することができるのならそれ以上に望むものはありませんが、
広場のテレポートサービスは使用者の情報が簡単に後悔される構造になっています。
そして該当設備が設置された位置でなければ仕様できなくなっていますので、
できれば私は携帯が可能で露出が少ない方法を……。』
『分かった、分かった。
うまくやってくれたのだろうと思っている。ハハ。
……また役立つ情報でも手に入れたらすぐ駆けつけて教えて差し上げよう。
そのすばらし〜い実験、頑張ってくれたまえ。』
−− 地下室を出口に向かい歩き出す。 −−
□
−−暗転−−
−− 男が立っていた位置に移動し辺りを見るランジエ。 −−
(はあ……本当にめちゃくちゃだな。嵐でも過ぎ去ったような光景だ。
メイリオナ様、頼むから後片付けにもほんの少し気を遣ってくれれば良いのに……。
私達の夢見る国は、掃除をしてくれる下人が存在しない世界だと何度も申し上げたが、どうも根本的な部分を理解できていらっしゃらないようだ。)
(いろいろと責められてはいるが、ほぼ完成段階なのにあきらめるわけにはいかない。
簡単な調整さえ終われば試験作動させることができるだろうから。)
『必要な物は……。
うーん……。』
『ゴムのかけら10個、リバイブパウダー10個、マナP(小)10個くらいあればいいだろう。
誰かの助けを借りるほどでもないから自ら手に入れて来たほうが良さそうだ。』
−− 地下室を後にする。 −−
■次回試運転のワープ装置です。
それにしてもメイリオナさん、理解してても掃除をする気がないんじゃないかと思う今日この頃。あのランケンさんの血縁者だそうですから……。■
→続きの話、ワープ装置
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