Home > クロエ(Ep2Cp0 Femme Fatale) 1p・2p・3p・4p・5p
−− 石碑に問いが記されている。 −−
《あなたが得ようとするもの。》
−− 力 −−
《あなたが得ようとするもののために、今ここで必要なもの。》
−− シエン(Xien) −−
《真正な言語を解釈し、現代言語エルト(ELT)に移す方法。》
−− ユニクロン読解法(Unicrone Grammar) −−
《あなたはすべての選択に責任を負う自信があるか?》
−− ある −−
『…………。』
(ここね。秘密の通路……。)
−− セティリアが声をかける。 −−
『……お嬢様、何をなさってるのですか?
ここには本しかないのに……。うん?』
−− 秘密の通路を見つけはしゃぐ。 −−
『わ〜!!
秘密の通路ですか?不思議〜。昔話にしか出てこない物かと思ってたのに……。』
『老婆心から言うけれど、セティリア。
あなたは他の人達にこのことを話して回るほど軽率な子ではないわよね?』
『も、もちろんです!お嬢様、私に名前をつくてくださったのもお嬢様じゃないですか。
私は外でお嬢様について絶対に一言も、なんにも、言いません!本当です!へへ。』
(あの時のわたくしは、内心セティリアへの疑いを完全に払えずにいた。セティリアはとても口の軽い子だったから。
長い期間をかけて準備した”儀式”をあの子が台無しにしたりはしないか……。そんな心配も心のどこかにあった。
隠された”部屋”に続く暗くじめじめした階段よりも、陰湿な雑念が頭を混乱させた。)
(まさにそれが、問題だったのだろうか。)
□
−−暗転−−
(マナは生命を意味し、コアとその中のパターンはその存在の魂同然。全ての生命を持った存在にはコアがある。
そのマナの流れをパターン化パルスと呼ぶ。
……そして現代の魔法はユニクロン読解法(Unicrone Gramamar)を基本とする。
ユニクロン読解法はシエン伝承者アトレウスの娘だった魔法師、エレクトラによって提唱されたシエンの解読法だ。現代言語エルト(ELT)で古代言語シエン(Xien)を解釈・発音する方式を作ったもので、”言語”だけで魔法を具現することができるようになった。
ユニクロン読解法の結果として提唱された魔法語がまさにユニクロンエルト(Unicron Elt)だ。
本来の言語、言語の起源、そしてまた”魔法そのもの”でもあるシエン(Xien)に比べエルト(ELT)で表現された現代の魔法語は不完全だ。
この言語はシエンに比べて威力も劣り何より失敗確率が高い。)
(そのため、魔法がたびたび失敗する理由は詠唱者の能力不足という場合もあるが、言語自体の欠陥もひとつの原因と言える。
当然のことだ。
本物ではないから”ユニクロンエルト”はシエン、すなわち”純粋な魔法語”を真似たものに過ぎないから。)
□
−−暗転−−
『わ〜お嬢様〜!こんな所があったんですね?不思議〜。
ここはどこですか?』
『…………。』
『しっ。静かにして、セティリア。』
『あっ……はい、お嬢様。口をぎゅっと閉じて一言もしゃべりません。へへへ。』
(アノマラド王立図書館には、アケロス王国時代の物と伝わる古書がけっこう残っていた。
わたくしは家の名のおかげで、一般に公開されない資料にも近付くことができた。
そこでわたくしは真正な魔法語に関して知るようになった。)
(……シエン(Xien)……。
真正な言語。真正ゆえ危険極まりないという古代言語。忘れられた言語……。
……わたくしは強い力を望む。
不完全な言語ではない真正な言語を望む。
完成されたもの……純粋なもの……欠陥のないもの……。本物の魔法を望む。
それがたとえ、とてつもなく危険な賭けであっても。)
−− 呪文を詠唱し始めるクロエ。 −−
『……お嬢様?』
『……わたくしには……力が必要……。』
『お嬢様……あの、私は絶対にしゃべらないって思ったのですが……。ですが……。』
『…………。』
−− クロエの詠唱に合わせ辺りが揺れる。 −−
『きゃあ!』
(シエン伝承者はもう残っておらず、最後のシエン伝承者として知られていたイウェリドは、曖昧な表現でいっぱいの預言書だけを残して死んでしまった。
その預言書はイウェリドが直接作成したのではなく、伝わっていたことを解釈したことに過ぎず、それさえも今はまともに残っていない。
アケロス王国が自然に忘れられていったように、預言書も徐々に消失してしまった。
まるで……、文字達がそれぞれ生きている虫であったかのように。)
『虫達がぎっしり本のページの上に止まっていて、時が来たため空へばらばらと散らばり、二度と戻って来なくなったように。
……そのように消えてしまった。』
−− 再び詠唱するクロエ。辺りが激しく揺れる。 −−
『きゃ……きゃああっ!
お……お嬢様!!お嬢様、早くそこから離れなければ危険……、きゃあっ!』
−− 三度詠唱するクロエ。視点がクロエに近寄る。 −−
(……わたくしには力が必要。本物の魔法が必要なの。
はやく出て来なさい、魔法!はやく……わたくしに見せなさい!
この呪文は不確実なものだが……、試してみる価値はあ……る……。
くっ……だんだん耐えられなく……くうぅ!
確かにここにあるはず……間違いなくこの部屋に……。シエン(Xien)の痕跡が残っているはず……。
魔法の光のもとだけで読めるというそのシエンが……きっと……!)
『お嬢様!!』
(くっ……。だ、だ……だめ……。もっと耐えなければ……、力を……。
……うっ!!)
−−赤転−−
−− 部屋中央の光球が反応し、辺りが再び揺れる。 −−
『きゃあっ!』
−− 視界がフラッシュアウトする。 −−
−−赤転−−
『……危険です、お嬢様!』
−− クロエを突き飛ばす。 −−
−− 倒れるセティリアと座り込むクロエ。辺りが炎上する。 −−
『……くっ!』
『…………。』
『セティリア……?』
『………………。』
『セティリア……。
セティリア!!セティリア!!』
−−赤転−−
−− 再び小部屋へと風景が移る。座り込んだその場所でセティリアを見つめるクロエ。 −−
『セティリアを、死なせるわけにいかない……。
助けなければ……いけないのに……。わたくしは治癒魔法など知らない……。
……………………………………。』
−−赤転−−
『……何?
セティリアの血痕……?まるで文字のよう……。
偶然?
偶然そう見えるの……?
……………………………………。
読めるはずがないのに……。何、この見慣れた感じは?
もとから知ってる言語のような……感じ。
……………………………………。
』
−−赤転−−
左上の声:《……本国との交信は?
切れたのか?完全に?》
右下の声:《…………。
落ち着け。》
左上の声:《落ち着いてる場合か?》
右下の声:《現実をまっすぐ見ろ。
いずれこうなるだろうという兆候は随分前からあった。》
左上の声:《はっ!あぁ……そうだ!
あの保守派がエデルで再び政権をつかんでから……。》
左下の声:《彼らにとって我々は突然変異であるだけだ。
コアパターンを読める能力以外は役立たずのやつらたったろう。》
右上の声:《それでは……どうする?
これから我々はどうすればいい?》
右下の声:《……大丈夫だ。
大丈夫だろう。》
左下の声:《ああ、大丈夫だ。我々にはここがある。
このテシスは我々の星……。》
左上の声:《ふん!愚か者どもは遠いエデルで朽ち果てるがいい!!
我々は躍動するこの星で生きて行く!》
右上の声:《永遠の命もなく、栄光もない。それゆえ我々は忘れられ去られるだろうが……。》
右下の声:《星の記憶の中へゆっくり……歳月とともに……消えてゆくだろうが……。》
−−白転−−
−−白転−−
−− 部屋の一室なのかあまり広くは無い場所で2人の話し声がする。 −−
少年:《……このままでいいのか?
このままで……本当にいいのか?》
声:《大丈夫だ。》
少年:《このままシエン(Xien)が忘れさられてしまうのに?
過去の遺物になりさがってしまうのに?
すべてのものが消えるのに!
彼らを覚えている人は誰もいなくなるのに!
それなのに大丈夫なのか?ええ?
……父さん!》
−− 間 −−
声:《……忘れられないものはない。
死なないものもない。
どこにも永遠など存在しない……。
愛も、情熱も、あるいは絶望さえ冷めてしまう。
灰の山だけが残るものだ。
……滅亡した王国のように。》
−− 重い足音が移動する。 −−
少年:《し……しかし……!
しかし!!》
声:《大丈夫だ。
ああ。》
−− 軽い足音が後を追う。 −−
声《我々にはあの子がいるから。
すべてを記憶し、全てを知り、すべてを伝えるために存在するあの子が……。》
−− 重い足音が歩き出す。 −−
少年:《…………。
私は……、あなたが理解できない。
あなたを……許すことができない!!
あいつにすべてを押し付けるな!》
声:《どけ。
私はもう王国をともに忘れられた話になりたい。
もう燃え尽きたい。
私は私のすべきことをすべてした。
これ以上は……無理だ。》
−− 重い足音が再び歩き出す。 −−
少年:《止まれ!!
止まれ……どうか!
逃げるな!!》
−− 間 −−
少年:《あいつを置いて行くな!》
−− 間 −−
少年:《……イウェリド!》
−−白転−−
『イウェリド……?
イウェリド・ド・ローランド……?
これは……古い記憶……?』
−−白転−−
−− 暗闇を走るクロエ。光球から光が放たれる。立ち止まるクロエ。 −−
『光……光が見える……。
すべてを燃やしてしまう太陽が……。』
−− 光へ向かって走るクロエ。 −−
声:《……を言う者は誰だ?》
『だ……れ?』
声:《伝承者か?》
『いいえ、わたくしは伝承者ではない。』
声:《……地で文字を書く方法を知っているのに、伝承者ではないと?》
『何を言っているのか分からないわ。
……あなたは誰?なぜわたくしにそんなに生意気な口調で話しかけるの?』
声:《ほう……。傲慢な態度だな。
ああ……、君は私を見る資格がある人物だろうな?
君は私に会うため、あの人間をいけにえとして捧げたのだろう?》
−− 離れた場所に倒れたセティリアが現れ消える。 −−
『いけにえ?いけにえだなんて……!冗談じゃないわ。
わたくしは私的目的のために他人を犠牲にするような、そんなタチの悪い人間ではないわ!
不愉快よ。』
声:《予言を聞くためにはいけにえが必要だ。》
『…………。
わたくしは予言などには興味がない。
これから起こる事に執着するほど弱い人間ではないから。
わたくしに必要なのは、真正な言語よ。』
声:《真正な言語?》
『シエン(Xien)。』
声:《…………。
シエン……。そうか、君はまだ伝承されていないのか?
……最初に私を生んだのもシエン(Xien)だった。
しかし私は言うだけで、創造することはできない。》
『あなたに何かを創造しろと要求した覚えはない。
できることが言うことだけならば、今からわたくしが必要とすることを言いなさい。
喜んで聞いてあげるわ。』
−−白転−−
声:《大昔。シエンが忘れられた言語ではなく、彼らがまだ生きていた時……。
その時代に彼らがどうして言語使用において慎重を期するしかなかったのか、分かるか?
言語が内包している意思、そして邪念はあまりにも恐ろしい力だったからだ。
彼らでさえも、手に負えない力だったからだ。
それに比べると今、君たち人間は真正な言語を真似ながら言っているに過ぎない。
……シエンは真正な言語だ。
真似た魔法言語でなく、魔法が純粋に力自体で存在していた時代の言語。
シエンが持った重義性と魔力は発言者を死に追いこむこともできる。シエンは発言者にその言葉を返す 特性があるからだ。
……どういうことか分かるか?》
『人を殺せる力を持った人は、その力で殺される覚悟から固めなければならないわ。
それは極めて当然のこと。』
『刀を持つ者は刀で死ぬ覚悟。権力を持つ者は権力で死ぬ覚悟。』
『そんな覚悟なら2本の足で歩けるようになった頃から持っている。
わたくしにはシエンを持つ資格がある。』
声:《シエンは……、発言者に自分の発言の責任を完全に負わせる言語。》
−−白転−−
−− 場面が、再び暗闇に戻る。 −−
『わたくしには責任を負う資格がある。』
声:《……最後まで義務という言葉は言わないのだな。》
『…………。』
『言わないわ。
絶対に言わない……。義務などという言葉は。しなければならないなどという言葉は。』
『たとえつらいことを経験するとしても、それはわたくしがその道を選ぶ資格があったからよ。
そうでしょう?
選択するのはどんな瞬間でも自分自身なのだから。』
声:《やはり……、彼らの後継者らしいな……。》
『……彼ら?』
声:《彼らの後継者である君……。》
−− クロエが手を前に勢い良く差し出す。光がクロエの元に舞い降りる。 −−
−−白転−−
声:《君はすべての魔法の祝福を受けるだろうが、代わりに……。
…………に捨てられるだろう。
真正な言語の宿命は責任。
剣で立ち上がった者は剣で血を流すものであり、言葉を放った者はその言葉の責任を負うもの。
君は未来を消耗し、今日を生きるようになるだろう。
……それが君にシエンがとどまる代価。》
−−白転−−
−− 再び暗闇に場面が戻る。光球が消え去る。 −−
声:《怖くないのか……?君は……。》
−− クロエに視点が近寄る。 −−
『…………。』
『怖くないわ。
代価なしに受けられる物など、この世にないから。
その代価がたとえわたくしの人生の半分だとしても、覚悟している。』
『どうせわたくしの人生の半分はわたくしのものではなかったのだから、それがシエン(Xien)のもになっても、運命のものになってもわたくしには違いのないこと。』
−−白転−−
声:《怖くないのか?君は。
君の両手が血で染まり、二度と清められることがなくなるとしても……。》
−−赤転−−
(そして目を開けた時、わたくしは自分の部屋のベッドに寝ていた。
何がどうなったのか、全く分からなかった。)
(推測だが、気を失ってしまったわたくしをセティリアが連れて出たのではないか……?
それならばセティリアは思ったよりケガをしなかったようだ。)
(幸いと思いながらわたくしは部屋の外に出た。)
−−白転−−
−− 庭園の階段前まで歩いて来て立ち止まる。 −−
『セティリア!
セティリア!』
−− セティリアを見つけ駆け寄る。 −−
−− 噴水の方を向いていたがクロエの方を向く。 −−
『あ……ああ……?
あ、あの……。クロエお嬢様?』
■セティリアの名が 幼いメイド になっていました。■
『セティリア!』
『セティリア、大丈夫?
ケガはない?』
『……お嬢様、大丈夫ですか?
三日間もお目覚めにならず、公爵様も公爵夫人も大変心配していらっしゃいます。』
『……わたくしがあなたに大丈夫かと聞いているのよ!
わたくしでなく、あなた!』
『もちろん……。私は大丈夫です。
お嬢様がご無事でしたら。』
『それよりはやく公爵様にお知らせしなければなりません。』
−− 庭園を後にする。 −−
(あの声を聞いたことも、秘密の書斎で経験したことも全部嘘みたい……。
それにセティリアはどうして急に硬い口調に?
今まではいくら注意しても子供のように馴れ馴れしい子だったのに。)
−− 庭園へと戻って来る。 −−
『クロエお嬢様、公爵様はあちらにいらっしゃいます。
こちらへ……。』
『あ……ええ。分かったわ。』
(責任を負わなければならないと言った……。
力に対する責任。言葉に対する責任。)
『書斎で聞いたあの奇妙な声が、予言であったとしてもそうでなくとも、結局その媒介になったのはわたくしの力ではなく、セティリアだった。
セティリアの血痕が文章を作り上げたから、わたくしはそれを読めた……。』
(だから意図したとしてもそうでなくとも、結果的にわたくしはセティリアをいけにえとして利用したわけね。)
『クロエお嬢様?
お体は大丈夫ですか?』
『……ええ。大丈夫よ。』
『しかし冷たい風に当たったかのように、青白く見えます。
やはりまた完治していないからではありませんか?』
『いいえ。何も……。
それくらいは覚悟していたから……。』
『恐縮ですがお嬢様が何をおっしゃっているのか分かりません。』
(わたくしには資格があるから。だから責任も負わなければならない。)
(セティリアが急に変わったのが、あの変な声が言ったとおり代価だとしたら……。
責任はわたくしにある。)
『さあ……もう行きましょう。セティリア。
お父様からひどく怒られるのが目に見えているけれど。』
『はい。お嬢様。』
−− 庭園を後にするクロエとセティリア。 −−
□
−−暗転−−
■長い長い回想の途中ですが一度切り。あと少しなのですが、容量オーバーしました。
次回はゼリーキング戦、終われるといいなーといったところでしょうか?■
→次の話、回想続きへ続く
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