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Chapter0 The Vortex
『…………。』
『ん、本を読んでいると思ったが……。
何だ?せっかく入れてきたお茶が冷めているのに、ページが進んでいないな。
ほお〜。お前でも、ぼうっとしている時があるんだな。
珍しい。』
□
−−暗転−−
『ああ……ぼうっとしているというよりは……。
……はい、まあそうですね。』
『大丈夫ですよ、こういう時は……。
……長い間止まっていた世界がやっと動き始めたこの瞬間は、存在しないも同然ですから。』
『むむ?何だ……また訳の分らないことをつぶやいているな。
とにかく、子供が大人ぶるのなんて、ちっとも可愛くないからな。
ちぇっ、とにかくお疲れさん!』
−− 若干の長めの間 −−
『……ふぅ。
かなり長かったと言うべきか……それともまさに刹那だったと言うべきか……。』
『…………。』
−− 間 −−
『インフェイズフェミノンに関する記録はこれが全て。
ガナポリーの栄光の記録が災いに変わった時、それも非嘆に満ちた呼気に混ざり散らばってしまったからだ。しかし振り返ってみると、もとより記憶とは歪曲であり、事実は神話の垢をかぶり色あせていくもの……。
人間の全ての歴史がそうではなかったか?
消失した文字の羅列は、結局灰の山のようなもの。
未練を捨てて目を開け。その扉が再び開かれる日が来るだろう。
誰も知らない場所で音もなく、ひとつの時代が終止符を打つ日が……。』
『…………。』
−− 間 −−
『……ああ。
直に……会えるだろうか……。』
□
−−暗転−−
−− 誰かが建物の中へ入って来る。ランジエがそちらを振り向く。 −−
『……何だ?子供ひとりだけか。
チェッ……。あの貴族の坊ちゃんはどこにいる?』
『こんにちは。
貴族の坊ちゃん……とは誰のことなのかお伺いしてもよろしいでしょうか?』
『何だ、知らないのか?貴族の坊ちゃん……。
まったく……俺は子供相手に何を真剣に答えているのやら……。
とにかく民衆の友もひどいもんだな。
苦労ひとつしたことないような子供がひとりで留守番とは。はあ……。』
『お前、ここで何を引き受けているんだ?
私はここの一員になってから長くはないが、こんな子供がいるなんて聞いたことないぞ。
まったく……資料を提供するのにもこんなに内密になんてな、チェッ。
人を何だと思ってるんだ?
やっと苦しい決断をして情報を提供しようと思ったのに……。』
『申し訳ありません。』
(……貴族の坊ちゃんといえば、どう考えてもギルデンスターンのことのようだが……。
この人に自己紹介をするまでもないな。)
『何だよ、こんなとこ何も見る物がないのに秘密だって?差別かよ……。
チェッ……気分悪いぜ。
まあ、お前みたいな子供相手にこんなこと言ってもな〜。
お前に大人たちの世界は分らないだろ。』
『無理して来てみりゃ誰もいないし……チェッ、やっぱりこんなことやめようかな〜。
情報提供とか何とか……自分だけバカみたいじゃないか。』
『…………。』
『力になれなくて申し訳ありません。
……カルツ商団側の私兵の方々と親しい付き合いのある、とても重要な方の話をちらっと聞いたような気がしますが、あなた様のことでしょうか?』
『おお〜、チビも知ってるのか?
ふむ、じゃあ話が変わってくるな。ハッハッ。
俺も秘密主義とやらをちょっとしてみるかな?ハハッ。
大人は子供と違って忙しいからとりあえず出直すぜ〜。またな〜。』
『さようなら。』
−− 訪問者が帰っていく。 −−
『…………。』
(……カルツ商団の情報を提供している警備兵というのはあの人のようだ。
重要な話なら聞き逃したら困るが……。また機会があるだろう。)
−− 建物外へと向かって歩き出す。 −−
□
−−暗転−−
−− 楽しそうに談笑する市民。警備中の兵士がのんびりと歩き回る。 −−
−− 視点が移動する。南方から歩いてきて立ち止まるランジエ。 −−
『おや、お久しぶりですね。
お忙しかったのでしょうか。具合が悪いのかと思って心配しましたよ。』
『こんにちは。フルヴィオ様。
……あなたは私の身の上をよくご存知じゃないですか。
頻繁に訪ねてフルヴィオ様に良い事は無いと思いますよ。』
『もちろんあなたの仕事に参加したり関与したりするつもりはありませんが、やはり心配はしますよ。
隣人として心配くらいはさせてください。
……気持ちとしてはもっとお役に立ちたいのですが、ご存知のとおり私には何よりも大事な人がいますので……。
少しでも危険の可能性があることはできません。』
『責めているわけではありませんが、そういうふうに聞こえたのなら申し訳ありません。』
『それより先日かなり面白い話を聞きましたよ。
世の中に苗族というものが存在するという話。
教えてくれた人はただ焚き火を囲んで聞くような、伝説くらいに思っていたようですが、実際にいると信じる人も多いですからね。』
『ああ……聞いたことがあります。
暗い褐色の肌、紫の瞳の色、そして輝く銀髪を持つ……と。』
『とにかく見たという人がいませんからね。
とりあえず暗い肌はケイレス砂漠の方に行けば意外にたくさんいるようですね。
銀髪は確かに珍しいですが、そこまで異彩だと思うほどではないと思います。』
『ところでウワサでは生存者がいるようです。
苗族の最後の後継者がどこかに生きていて、何かを探しているそうです。
物好きな人たちが名残惜しさに作り出した話かもしれませんが……。
星がこの地に降りてきた子供と呼ばれる、苗族の引導者が生きていたら、まさに幻想的な童話の再臨みたいですね。』
『苗族に伝わる伝説によると、星の死とともに生まれる赤子は星がこの地上に降りて来た人と呼ばれ神聖なものと考えたそうですね。
苗族の生存者がいるという話さえ信じがたいですが、よりによってその生存者が神の武具を守ることを任せられた人だなんて……。
本当に作り話みたいですね。』
『……神の武具やら何やら、信じがたい話だらけですよ。
ハハ。』
『調べてくださってありがとうございます。
おっしゃるとおり、ただの夢のような昔話なのに煩わせてしまったようですね。』
『いいえ。
これくらい大したことありません。』
『それでは。』
『ユスティン君!』
『?』
『そういえばナルディーニさんがいいお茶を手に入れたと言ってましたが、一度行ってみてはどうですか?
この前買って行ったお茶がそろそろなくなる頃だと思いますが。』
『ナルディーニ様がいいお茶とおっしゃっても……。
……それ、信じても良いのでしょうか?』
『今度は大丈夫そうですから、行ってみてください。
飲める代物でなければ、ユフェミア嬢が必死に横取りして、ゴミ箱に捨ててくれますから。』
『そうですか。
いつもありがとうございます。』
□
フルヴィオ:
−−暗転−−
−− 繁盛する店内から、店内に入ってくるランジエへと視点が移る。 −−
『カモミールカフェへようこそ。
私はカフェを管理しているユフェミア(Eufemia)です。……あら。』
『こんにちは〜。本当にお久しぶりですね。
ときどきお茶を買いにいらっしゃった方でしょう?覚えています。』
『こんにちは。』
『どうしましょう?申し訳ありませんが、今日はちょっとした事故があって、ナルディーニ先生がいらっしゃらないのでお売りできるお茶がないんですよ。
他のものは全部予約済みで、新しく開発したお茶ならあるのですが……。
私はその抽出法を知らないのでお出しすることができません。』
『事故だなんて何かあったんですか?』
『いつもとまったく同じパターンですよ、もう……。
新しいお茶を作ると言って変な薬草を20種類もいっぺんに召し上がったナルディーニ先生が、バタンと倒れたんです。
はあ……。サビットも一緒に具合が悪くなって、ふたり仲良く担架で病院に運ばれましたよ。
もうやってられませんよ〜。理解できないわ!
サビットが試飲して真っ青になったのを見ていながら、ナルディーニ先生はどうして一緒に飲むのかしら!!
二人ともおバカなのか、どちらが毒に耐性があるのか勝負でもしているのかしら?!』
『…………。
重症でなければ良いのですが、付き添っていなくても良いのですか?』
『まあ、また話が長くなってしまったわ。
申し訳ありません。
先生なら大丈夫ですよ。ただの腹痛みたいですから。
こんなことがある度に病院に駆け付けてたらカフェはたたまなくてはならなくなりますよ。
何しろ良くあることなので私も慣れました。』
『はい……。
それではいつ頃お茶を買いに来れば良いでしょうか?』
『お急ぎですか?
私も確実にいつとは言えませんが……。
…………。
あらかじめ材料をちょっと用意しておけばいいかも……うーん……うーん……。』
『返答が難しければ出直します。』
『あ、あの〜、どうにかして便宜を図りますから私の頼みをちょっと聞いてくれませんか?
お客さんにこんなこと……無礼だって分っていますが……いいお茶を差し上げますから。
特別なお客様が来たら出そうと保管しておいたお茶です。
それを差し上げますよ!ですからちょっと手伝ってください、ねっ?』
『難しいことでなければお手伝いしますよ。
私にできる仕事なら。』
『ウワ〜!本当にありがとうございます!
助かった〜!そんなに難しいことではありません。うーん、必要な物は〜。
キウイシロップ5個とフラワーゼリークリーム40個を持って来てもらえますか?
それくらいあればどうにかなると思います。』
『それくらいなら難しくなさそうです。
それでは……。』
『申し訳ありません。
お願いしますね〜。』
□
−−暗転−−
−− 再び訪れたカフェ。
右奥で学生が談話している。他にも店内の様々な場所で客達が会話に花を咲かせている。 −−
男子学生:
女子学生:
『あっ!いらっしゃいませ!
急に無理なお願いをしてハラハラしてましたが……ありがとうございます。』
−− キウイシロップとフラワーゼリークリームをランジエから受け取るユフェミア。 −−
+経験+
『ああ〜、助かった〜。
これで当分心配ありません。ナルディーニ先生が帰って来たらすぐに明日の営業準備をしないと!』
『お役に立てて嬉しいです。』
『約束どおり、これを差し上げますね。』
−− 柔らかいミルクティーを手渡す。 −−
『あ、それから……少しですがバイトをしたということでこれを受け取ってください。
本当にご迷惑をおかけしたので……。』
−− SEEDを手渡す。 −−
『はい……。
ありがとうございます。』
『ふう〜、本当に一安心です。
ありがとうございます。
まったく、同じ学生さんでしょうにどうしてこんなに違うのかしら。
毎日うちの店でおしゃべりしてるどっかの学生さん達は、
店がつぶれそうになっても気にもとめないんですよ?』
−− 視点が学生達に移動する。 −−
男子学生:
女子学生:
−− 視点が再びランジエ達に戻る。 −−
『知らんぷりよ、まったく……。
はあ、毎日おしゃべりばっかり!ネニャフルだか何だかはそんなにヒマなのかしら?フンッ。』
『それでは私は失礼します。』
『は〜い、さようなら。
今日はありがとうございました。』
(薬を貰わないといけないから病院に寄らなければ。)
−− カフェを後にするランジエ。視点が奥の学生達に移る。ユフェミアの方を向いていた男子学生が女子学生の方を向く。 −−
『?』
『ど……どうしたの……?
リアナ。』
『学院で見たことないわ。
あんなにきれいな顔の人をこのわたしが覚えてないはずないでしょ?』
『そ、卒業生……じゃないかな?
……いや、違うかもしれないけど……うーん。』
『そうかしら?
まだ若く見えるのに卒業生?……う〜ん。』
−− 視点がユフェミアに戻る。 −−
『……リアナさん!ウォルポール君!
飲み終わったコップは片付けてください!
ああ〜まったく……。同じ学生なのにどうしてこんなに違うのかしら?!』
−− 視点が学生達に戻る。 −−
『あんまりじゃないですか?ユフェミアお姉さま。
わたし達、こう見えてもお客さんですよ〜。お客さん!!
お忘れですか?』
□
−−暗転−−
−− 病院左端の席と傍に子供が2人、右側に患者が座っている。
中央にヒーラー達、その傍にナルディーニとザビットが立っている。 −−
『こんにちは。』
『こんにちは。』
『ときどき薬を貰いに来る方ですね?
……この前の処方を覚えてますから少々お待ちください。』
『その節はありがとうございました。
急に往診に来て頂いたのに、まともにおもてなしもできなくて……申し訳ありません。』
『大事に至らなくて幸いですよ。
そして薬は……はい、どうぞ。』
−− 気力回復薬を手渡す。 −−
『これは天涼香?
龍泉竹塩のにおいも混じっているようだし……何だ?
新作のお茶のにおいか?何のお茶だ?』
『あ、本当にいいにおいがしますね?
……でもお茶のにおいではないようです、ナルディーニさん。』
−− ランジエがナルディーニ達の方を向く。 −−
『あ、うちの店にたまに来ていた学生ですね?
それは何ですか?
初めてかぐにおいみたいですが、このナルディーニも知らないお茶が世の中にあるのでしょうか?』
『こんにちは。
ユフェミア様がずいぶん心配していらっしゃいましたが、お元気そうで幸いです。』
『それより……何のお茶ですか?
それは。』
『ああ、これは……。』
『ああ〜まったく、いい香りがするものはぜ〜んぶお茶だと思っているのですか?
ナルディーニさん、あれはお茶ではなくて、薬ですよ。薬!
私達のセラフィス様が開発した気力回復薬です!
体も健康!心も健康!ああ〜、やっぱりセラフィス様はすごいわ〜!』
『本当にこのにおいが薬のものだと言うのですか?
わあ……薬は好きではありませんが、あんなにおいなら僕も試飲したいくらいですね。
菊花茶と少し似たにおいみたいですが……。』
『とりあえず天涼香が入ってるのは確かですね?
私の鼻はごまかせません!』
『ハハ。ナルディーニさんは本当にいつ見ても活気にあふれていますね。
……ユフェミア嬢はお困りのようですが。』
『そうなんですか。』
『活気があるのはいいことですよ。』
『……そうですか。』
『はい。見ていると愉快な気分になります。
邸宅の外に姿を見せないはずの大貴族のご令嬢が、実はそんなことはないとか……。
そういう話みたいに愉快ですね。』
『はい。』
(フォンティナ家のお嬢さんの話だな。
単純なウワサだと思ったが、あえて言及するってことはそうではないという意味か。)
『やはり若い学生さんには美しいお嬢さんの話がぴったりだと思ったんですがね。
立派な貴婦人がとても遠い所に外出なさるなんて、
物好きな人達にはこれ以上にない良い話の種ではないでしょうか?』
『若い学生に物好き……。
何だかあっという間に複雑な立場の人間になった気分ですね。』
『ハハハ。
そうではありません。ただ関心があるかと思って申し上げただけです。』
『お気遣いありがとうございます。
それではこれで……。』
『ミユロゼ付近でしたよね?
患者がいる所は……。こんな日は部屋が暑くなりすぎないか心配ですね。
暑くても薬はお湯と混ぜて召し上がらなければなりませんよ。
ご存じでしょうが気を付けてください。』
『はい。ありがとうございます。』
−− 病院を後にする。 −−
□
−−暗転−−
■随分とかかりましたが、ランジエ1週目完了です!
しかし、ナルディーニさんのお茶が酷く不味いのは、匂いだけしか気にしていないからかもしれないですね。
味……変なもの入れなきゃ飲めるはずなんですけどねぇ……、何入れてるんでしょう?■
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